グループ展 POP UP @KCUA

2022

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POP UP @KCUA
撮影:来田猛
POP UP @KCUA
撮影:来田猛
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撮影:来田猛
POP UP @KCUA
撮影:来田猛
POP UP @KCUA
撮影:来田猛
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撮影:来田猛
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POP UP @KCUA
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POP UP @KCUA
撮影:来田猛
POP UP @KCUA
撮影:来田猛

「POP UP @KCUA」
会場 堀川新文化ビルヂング
会期 2022年1月15日–2月13日
出展作家 
大槻拓矢、森夕香、矢野洋輔



ものをつくることを日々のいとなみとしてきた街に、文化をより楽しむための新しい場所「堀川新文化ビルヂング」が生まれました。また、約140年にわたって芸術を育むための活動を続けてきた京都市立芸術大学は、より街にひらかれた、テラスのような大学を目指して、新しい場所を作ろうとしています。これら二つの活動体が協力して行われる本展では、近年に京都市立芸術大学を卒業・修了した作家のなかから、大槻拓矢、森夕香、矢野洋輔の三人の作品を紹介します。

大槻拓矢は、写生や模写で得たかたちを丁寧な筆致で画面に転写して配置しながら、絵画とは何かを考察する作品を制作しています。写生のモチーフとなるのは、大槻が日々過ごすなかで出会う、誰もが目にしたことがあるかもしれない事物の数々です。写すという行為の繰り返しを通してごくシンプルなかたちとなったそれらは、柔らかな色彩を纏い、本画のパーツとして機能します。それらの断片は互いに繋がりを持つようで持たないままに、ときにはある方向に流れるように、あるいはどこへも向かわずに漂って、特定の物語を示すことなく画面の中に存在しています。その様子は頭に浮かんでは消えていくとりとめのない物事のありさまにもどこか似て、画面を眺めているうちに鑑賞者自身の中でぷっつりと途切れていた記憶と繋がって何らかのストーリーに結びつくのは、ある意味で必然と言えるかもしれません。

森夕香は、湿度や温度、風、音などのその時々の環境と、身体とのゆらぐ関係性を自らの経験を手掛かりにして描き出します。自分の外側の世界に接する皮膚、目、耳が感じ取ってきたいくつもの情報に影響を受けて身体の内部が変化していく様子が、互いに溶けゆくような、境界のあいまいな図像に表現されています。これは森だけの特別な体験ではなく、日常の中で誰にでも起こり得るけれど、たとえばカメラでは記録することができないような、不可視でつかみどころのない現象です。それらに有機的なかたちを与える森の筆づかいは非常に動的かつ軽やかで、絵画というフォーマットでありながら、視覚偏重の世の中に生きる私たちの、視覚以外の感覚をも呼び覚ますのです。

矢野洋輔の制作は、素材となる木との出会い、それらが持つ個性との対話から始まります。力業でねじ伏せて造形を行うのではなく、その木の種が持つ特徴、一つとして同じものがない節や枝などの特徴などに寄り添いながら、唯一無二のかたちを作り上げていきます。また、スケッチやドローイングには、日々の観察で出会ったものをさまざまな視点から捉えたかたちや、制作における思索など、ものをつくるという行為とは何かをシンプルに突き詰めるさまが表れています。そうして矢野が作り出すやさしくも力強い木彫は、芸術表現という域を超えて、私たちに自然と人間との共生のあり方、人が生きるために不可欠な営みについて思いを巡らせることを促します。

三者三様の表現ではありますが、日常の中で出会う小さな気づきと丁寧に向かい合うことでうまれた作品の数々は、鑑賞者それぞれの思考、記憶や感覚と結びつき、新たな物語をもたらしてくれることでしょう。この展覧会が、書店を入り口に思索を広げるこの場所でめくられる、実り多き1ページとなれば幸いです。


藤田瑞穂(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAチーフキュレーター/プログラムディレクター)